授業中の落書きはもちろん、バスフィッシングやロックアーティストなど、誰に習うわけでもなく自分の好きなものは何でも描いた。そんな八百板少年をご両親は決して良く思っていなかったようだ。だが自分の道を切り開くべく、自ら貯めたお金でデザインの学校へ通ったり印刷関係の仕事で社会の仕組みを学んだ。度々のコンペ受賞や運命の方向性を示す人達に刺激とチャンスをいだだき、様々な葛藤を乗り越えた八百板先生の人生は65年目に入った。もはや国宝級のセンスと技術は歴史に名を刻むこと間違いないだろう。
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八:最初の仕事は雑誌「タックルボックス」のステッカーになったイラストかなぁ。今じゃ、あんな絵は描けないよ、もっとちゃんと描いちゃうから(笑)。すごく嬉しかったけど、仕事が続くわけでもなく、ただ時間ばかり余らせてしまって。だからと言うか、ひたすら描いたよね。そんな時に “日本イラストレーション展”の開催を知って、書き溜めていた作品の一部を応募しました。「印旛沼を背景にしたジャンピンバス」の絵だったなぁ。
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L:コンクールや応募にも、やはり魚の絵なんですね?
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八:基本は好きなものを描いているから必然的に釣りの絵になるよね。中でもやっぱり、バスって特別じゃない?見た目も格好良いんだけど、魚としての存在に惹かれるんだよね。何より、そういう絵が世の中に通用するのか?試してみたい気持ちも強くあった。「自由部門」で出したつもりが、どう言うわけか「テクニカル部門」で入選しちゃって。その絵は海外の各地コンペティションに出展して、一年くらいかけて最終的に手元に戻ってきたんだ。
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L:「自由に描いたのにも関わらずテクニックを認められた」ってことじゃないですか?よっぽど、凄く嬉しい話じゃないですか!
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八:技術だけでなく「自分が描く絵の世界観はどこまでも通用するのか?」って、常に疑問にあったから…。そんなある日、元地球丸の菅井編集長が完全なご厚意で、アメリカの画家を取材する仕事をいただいて、現地に行ってみたら衝撃だったよね。海外ではオオカミやシカやクマ、渡り鳥などの自然界をリアルに描く「WILD LIFE ART」っていうのが盛んで、ホテルに行っても知人宅に行っても、必ずと言って良いくらい絵が飾られていたんですよ(笑)。まさしく自分が求めていた世界観がアメリカで定着していて、その現実を目の当たりにして「俺の世界観は間違ってなかったんだ!」って確信したよね。で帰国して、いち早く出版社や関係者にその現実を伝えたら「え?!そんな絵が売れるか?」って、全くの不評だったの(笑)。
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L:完全な文化の違いですし、今ほど電波も盛んじゃないですからね。
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八:でもそんなタイミングで、ご無沙汰していた雑誌「タックルボックス」から表紙依頼の話が舞い込んできて…。雑誌の挿絵というのは、ページレイアウトに合ったサイズや絵のタッチなどの指定が入るんだけど、その表紙に限っては「縛りなしの自由に描いて良い!」って言ってくださって。
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L:いよいよ、本領発揮じゃないですか!
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八:そう!この時とばかり、海外で刺激を受けたまま自分の世界観で描かせてもらったよ。案の定、それはフィッシング界にとって凄く衝撃だったみたいよ(笑)。耳心地が良いPOPSな世界の中に、ドロクサイ洋楽のコピーバンドがデビューしちゃったようなものだからね(笑)。でも本当に嬉しかったなぁ。
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八:自分の方向性に変わりはないんだけど、最近は立体的に見えないと嫌でさぁ。臨場感が欲しくて。昨年目黒で個展をやったじゃない?あの時に、近づいたり離れたり側面から見たりして首を傾げる人がいて、僕の狙い通りで嬉しかったなぁ(笑)。
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L:トーンのバランスで表現しているんですか?
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八:そうだね。ただ綺麗に絵を描きたいわけじゃないから、見てくれる人に想像してもらいたいよね。奥行きというか、雰囲気というか、空気感だよね。そこには温度や湿度、風や日差し、時間帯とかも感じ取ってもらい、絵から物語を感じて欲しいです。そう言えば、昨年ブラックバスは国内で100年目の歴史を迎えたじゃない?我々釣り人を楽しませてくれている反面で、釣り人のプレッシャーで命を落とした魚も少なくないと思うんだ。だから描く時も「命」として尊重したいし、魚にリスペクトと感謝を込めて描くようにしています。こうなってくると、実は僕は“イラストレイター”じゃないんだよね。“イラストレイター”っていうのは、臭いのない方が求められるじゃない?昔編集者に怒られたことあるもん「絵がキツすぎて文章を殺している」って(笑)。
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L:絵の主張と文章が喧嘩しちゃうというか?絵が強くて文字が目に入らなくなってしまうんですかね?
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八:そう。だから僕は実はイラストレーターにはむいていなかったのかもね(笑)。それでもお仕事を下さった皆様のおかげでなんとかやって来られました。
*昨年11月に「KOJI YAOITA ANTHOLOGY」をリリース。1980年代から30年以上にわたり、水辺や魚のフィッシュ・アートを描き続ける八百板先生。国内第一人者とも言える画業を集大成した一冊だ。
KOJI YAOITA ANTHOLOGY