痴虫の松本氏はアート界の村上隆(現代美術家)さんに弟子入りをしながら芸大に通っていた。しかし三年で中退。その後、厳しい鬼師匠に悩まされアート界を離脱。今までの真逆の環境を求め、夜の新宿歌舞伎町で荒んだ生活を送る。廃人と化した松本氏に唯一残された自分らしさとは「釣り」。ゆっくりだがルアーを作り始めたそうだ。松本氏は言う「分かりやすい物やヒット商品を継続すれば売れるのは分かっている。分かっていても、それを続けたり自分が満たされそうになると、敢えてそこを外した表現がしたくなる」と。彼なりに真剣に考えた結果、その破壊行為が次への原動力になるようだ。トリッキーな彼の出で立ちや表現は意図的で、その背景には真面目なパンク精神が根底にある。彼は笑って言う「我ながら自分の精神の仕組みが不自由だなとは思います。自ら安定しない道を選んで、わざわざ苦労して生きている不憫な奴なんです」と。
ハンドメイドトップウォータービルダーとして異彩を放つ「痴虫」の松本氏。その奇抜とも言える彼の作風は、人を驚かせ喜ばせ魅了するが、時に人を理解に苦しませることもある?そのストレンジ感ある彼の個性ついて、彼と縁ある方々(フィッシング師匠、ビジネスパートナー、ルアービルダー兼ブランドオーナー)3人に聞いてみた。
鈴木美津男said
第一回「鋼派」(H-1グランプリへと繋がるハードルアーオンリーのオープントーナメント)の優勝は彼だと聞いて驚いたよね(笑)。前歯無いし髪の毛はボサボサだし見た目からして変態じゃん?当時「あんな奴とは一生友達にならない!」と思ったよ(笑)。しかしそれから数年経って、同船していた後輩のルアーに興味を持って投げてみたんですよ。「このルアー作った奴…天才じゃない?」と言ったら「これ、あの優勝した痴虫の海馬ですよ!」って。「まさかアイツの!?」と崩れ堕ちたのよ(笑)。ルアーを引いただけで「これ、釣れる!」って分かるのが、僕のバス釣りを45年した財産なんだけど、海馬には釣れる要素が全て凝縮さていたね。それ以降は僕からコンタクトを取って仲良くさせてもらってます。海馬は「H-1グランプリ」でも過去最多のウイニングルアーだし、奴のルアーは徹底的に研究されていて、あの正面からぶつかる情熱や姿勢にみんな惚れちゃうんだと思うな。あー見えて実はどんな釣り人よりも真っ直ぐで本気ですよ。でも、そんなのが分かりにくいところも、奴の良いところかもね(笑)。
菊地大介said
今回プラスチックで「カイバード」を出しましたけど「ヤルな!」と思いましたよ。本来は利益率や生産性を高めるために「海馬」をプラ化した方が断然売れるのを分かっておきながら…ですよ。バンドで言ったらメジャーアルバム!一般の方がこれに触れて、投げて釣ってたら「バスって鳥のルアーでも釣れるんだ」と思うわけですよ。これぞ!ハンドメイドプラグの表現だと思うし彼の意図的な意思表示なんですよ。そんなキッカケを作ることによって、ユーザー達の文化レベルも上がり彼のパンク精神も維持できるんですよ。何より凄いのは「鳥でバスを釣る」という考え方でなくて「鳥の形をしたルアーに釣れる要素を盛り込んでる」というところです。これって、本来ボクらが愛するトップウォーターのプラグの原点じゃないですか!?ふざけているように見えて、ちゃんと造形や配色もプラでしか出来ないことをしている。トップに拘ったブランドだけど、縛られることなく広い視野で行動して貪欲に釣りマーケットを見ているし、妙なビジュアルの印象が強いかもしれないけど…実は「ハードコア・マジメ」っすよ(笑)。
白川友也said
まだそんなにお会いしたことはないんですが、痴虫さんと一番初めに会ったのは「KEEP CAST2019」のイベント会場でした。僕の方からブースへ挨拶に行ったら、着ぐるみ衣装を着ていたせいか?やたら恥ずかしそうにしてました。詳しくは知らないのですが、前にペラがついてボディーにブレイドがついたルアー(海馬シリーズ)がありますよね?あれは痴虫さんのオリジナルを感じますね。個人的にトップウォータープラグのカラーリングは興味がありまして、中でも痴虫さんはズバ抜けて変態チックで、自分なりに考えたギミックも他社にはないオーラがあって気になっていました。彼自体はふざけているように見えるかもですが、作っている釣具には本気度が感じられますね。そんな痴虫さんが、昨年秋に渋谷PARCOで行ったDRTのイベントに遊びに来てくれました。トップと僕らとではジャンルの違いで、興味がないと思いきやわざわざ独りで来てくれたんです。DRTについても良い質問をいただいて「そんなところまで見てるんだ!?」と嬉しかったですよ。良い意味で「何を起こすか分からない怖い存在」ですよね(笑)。